【開催報告】2月16日北海道本別町にて、令和元年度地域包括ケア住民報告会を行いました
2020年2月16日、北海道本別町にて、令和元年度地域包括ケア住民報告会を行いました。こちらは地域包括ケア研究所が2018年度よりプロジェクトに関わらせていただいている地域です。
<プロジェクトの紹介はこちら>
https://th.y-nakajima.info/cms/case/40
今回は3年間の取り組み成果について、地域の住民の皆様に向けて、本別町国民健康保険病院の方と一緒に報告会を実施しました。また、特別ゲストとして、伴正海氏をお招きし、「地域包括ケアシステムという新たな医療のカタチ」のテーマでご講演いただきました。
<令和元年度地域包括ケア住民報告会>
第1部:9:30~10:10
開会挨拶:本別町長 高橋正夫氏
報告「地域包括ケアプロジェクトの3年間」:地域包括ケア研究所 代表取締役 藤井雅巳
第2部:10:15~12:00
講演「地域包括ケアシステムという新たな医療のカタチ」:横浜市立大学特任教授 伴正海先生
報告会は、高橋正夫町長のご挨拶を皮切りに、弊研究所代表藤井の「地域包括ケアプロジェクトの3年間」の報告からスタートしました。
藤井は、冒頭に「3年間がとにかくあっという間だった。3年前に感じたことはこの町がとてもあったかいということ。今日は皆さんと3年間を振り返る時間にしたい」と、これまでの感謝の気持ちを伝えました。
その上で、今日の目的は「本町の地域包括ケア研究所の現在を知っていただき、その芽をこれからの本町の“まちづくり”につないでいくこと」と伝えます。
藤井は、地域包括ケアの体制作りのために、①健康づくり、②人材確保、③公立病院改革、④情報発信、4つの観点からアプローチし、「地域包括ケアプロジェクト」と名付け、プロジェクトをスタートしました。
健康づくりは、町のマスコットキャラクターとタイアップをしたGENKIくんプロジェクトを実施し、自治会や学校に訪問を行い、住民の方々への健康啓発を行いました。結果として、特定健診受診率が3年間で約18%上昇し、48.7%になったと報告します。
<GENKIくん>
https://www.town.honbetsu.hokkaido.jp/web/town/town06.html
人材確保は、全国より医療介護の専門家が集まった、地域医療を深める至極の3日間『星空キャンプ』を実施したと報告します。こちらの勉強会には、全国から十勝地方に43人もの医療介護の専門家が集まりました。参加者の中には、この勉強会を通して、十勝地方の魅力に感動し、本別に転居を決めた人もいたとのことです。
<星空キャンプ>
https://th.y-nakajima.info/cms/portfolio/hoshizoracamp/
他にも、諏訪中央病院、湘南鎌倉病院を始めとする有名病院と提携し、僻地医療を学ぶ、研修プログラムを構築することで、若い医師が本別にくる仕組みづくりの土台ができたと言います。
3つ目に、公立病院改革は主に以下の軸で進めてきたと報告します。
(1)町民のニーズをもっと応える外来へ
(2)在宅復帰
(3)地域を元気にする病院へ
(4)無駄のない病院
(5)もっと魅力的な病院へ
特に、大きなトピックとして、本別町国民健康保険病院に地域連携室の体制構築を上げました。これにより、周辺医療機関との連携が今まで以上に強固なものとなり、スムーズに患者の紹介および逆紹介を行えると言います。
最後に、情報発信では、まちの情報発信基地として、「Hotほんべつ」と呼ばれるサイトを作ったと言います。
<Hotほんべつ>
https://honbetsu.com/
こちらは、本別町の魅力を住民自らの手で全国に発信ができるメディアです。
「本別には面白い人がたくさんいる。情報発信を行うことで、自分らしい生き方を選択できる町と全国の人に認知してもらえれば、本別町はもっと面白くなる」と藤井は言います。
最後に、藤井は「皆の困りごとを皆で支え合う。住民全員で誰かを支え、誰かに支えられ、一緒に暮らしの困りごとを解決していくことが地域包括ケア。3年間の活動の中で出た小さな芽を、住民の皆さんと一緒にこれからも育てていければと思います」
と締め、伴先生の次の講演へとつなぎました。
マイクを受け取った伴先生は冒頭に、優しい声で住民の方々に問いかけます。
「皆さん本当にこの病院に安心感を持っていますか?」
伴先生はこう続けます。
「地域包括ケアシステムには、住民の皆さんの協力が必要不可欠です。安心できる暮らしづくりは医療だけで完結しません。医療、介護、福祉が一体となって構築されていくものです。地域包括ケアシステムという言葉を聞くと崇高な言葉に聞こえるかもしれませんが、実はとても地道な活動の繰り返しです。その一つ一つの取り組みが積み重なり、皆さんが安心して暮らしができる環境の土台となっていきます」
加えて、住民の声が病院に届いていないケースが全国的に多いと伴先生は言います。
「医療者は病院の中にいると、患者さんが満足しているのかはわかりづらい。だからこそ、住民の皆さんに適切に評価をしていただき、声を上げてほしい」
もし、皆さんが“近くの病院”に不満があった場合にも声を上げず、“遠くの病院”に通い続けるとどの様なことが起きるでしょうか。車を運転できる元気なうちはいいかもしれません。しかし、年齢を重ね、自身が交通弱者になった際には、近くの病院に通わざるをえなくなる時がくるでしょう。その時、今まで声を上げてなかった代償として、自分が求める医療・介護を受けられないかもしれません。“近くの病院”が、自分が老後安心できる病院であるためにも、皆で日頃から声を上げていただくことが大切です。そして、病院はその声に真摯に向き合い、一緒に改善をしていく姿勢が求められます。
そこから話題は医療政策の話へと移ります。
「社会が変化していく中で、求められる医療の形も時代とともに変わっていく」と伴先生は言います。
“治し、死なせない医療(急性期医療)”から、“支え、看取る医療(回復期・慢性期)”へと必要な医療のかたちが変化をしています。
「制度は社会の変化に適合しつつ、作られていく訳ですが、地域によって実情が異なるため、一律の制度を全国に適合させるのは難しい時代になってきている」伴先生は言います。難しいからこそ、地域の実情に応じて、それぞれの地域が個別で対応をしていくことが求められます。
「病院の役割も地域のニーズに合わせて柔軟に変えていかなければならない。そのためには病院単体ではなく地域単位で考え、病院機能の役割を分配していく、地域医療構想という考えが必要」と伴先生は伝えます
地域包括ケアシステムは上の植木鉢の図でよく表されます。
「細かい地域包括ケアシステムの説明は省略致しますが、大事なポイントは土台に“本人の選択と本人・家族の心構え”があることです。元気なうちに、自分の人生の生き方と逝き方(ストーリー)を大切な人たちと共有しておくことがとても大事です。これが今話題の人生会議ですね」と伴先生は言います。
地域包括ケアシステムで欠かせないキーワードとして、自助、互助、共助、公助という考え方があります。
(参照:地域包括ケアシステム.com)
伴先生は自助、互助、共助、公助の考え方について必要なポイントを次の様に伝えます。
「高度経済成長期は、人口が増加し、財政的にも潤っていたので、公助と共助で社会保障の大半をカバーすることができました。しかし、現在は人口構造も変化し、経済的にも厳しい状況が続いているので、公助と共助だけでカバーするには難しい時代になっています。なので、自助と互助の概念がとても大切です。そのためには、地域で“顔と腕の見える関係”を作っていくことが必要です。ポイントは顔だけでなく、腕も見えることです。簡単に言えば、”どこへ行けば何をしてもらえるのか”を地域ですり合わせていくということです。行政も医療職も住民も同じ方向性を見て、対話をしていく姿勢が求められます。そして、皆が当事者意識を持って少しずつ実行をしていくことが何よりも大事です」
講演の最後に伴先生は自身の思いを伝えます。
「人は誰もが老い、いずれ終わりを迎えます。だからこそ、どう生きていくのかを考える必要性があると思います。それぞれの思いを実現させるためにはどうしたらいいか。
それが地域包括ケアシステムです。そのためには、60点ぐらいを目指していくのが私は良いと思います。誰かの100点というものは誰かの30点であることがあります。“これぐらいでいいか”とちょうどいい妥協点を、対話を通して目指していくことが大事だと思います」
伴先生ありがとうございました。